さて、今年は明治工芸に開眼した年だった。夏に都内で見た
「超絶技巧!明治工芸の粋」には大きく心を動かされ、それ以来、ここには早々に訪れなければいけないという思いから早三ヶ月、
並河靖之七宝記念館(兼自宅)を訪れる運びとなった。
これだけ京都に観光に行きながら意外に足を運ぶことの無かった東山三条付近にこの並河靖之七宝記念館はあった。
外観は趣を感じさせ、お世辞にも綺麗とは言えないが、ここからあの超絶ともいえる作品群が生まれたかと思うとそれはそれで感慨深い。

入場料を払って中に入るとこぢんまりした空間に並河靖之の歴史が並んでいた。尚、この日は特別展として
「並河七宝と下画」が開催されていた。並河靖之自身の手による下図と、その完成品が対になって展示してある。とても興味深い。とはいえ、点数は多くない。また、それ以外の並河作品自体も思ったよりは少なかった。大型の作品は殆ど無く並河作品を存分に堪能する・・・という感じでは無い。じっくり見ても一時間はかからないがそれでも並河作品誕生の地で見る並河作品は格別な感じ。

一通り作品群を見たら移動。池が見事な並河邸の庭。個人邸としては見応えが有りこんな家に住んでいたら創作活動も捗るかなぁ・・・という落ち着いた空間。一階は開放しており庭を眺めることができる。
所々に置かれた石が見事。中では七宝製作のビデオを上映している。

この見事な庭は七代目小川治兵衛の作庭。池についても当時完成したばかりの琵琶湖疏水から水を引いており、これは個人の庭園としては初めてのようです。

この並河邸の庭は
京都市指定名勝にもなっているということだ。

こんな遊び心も並河邸ならでは?

並河七宝記念館の外観。明治27年に造られた。

↑これは以前「超絶技巧!明治工芸の粋」のエントリーで作ったCG。エントリーはこちら↓
あなたは「超」を何個付ける?三井記念美術館『超絶技巧!明治工芸の粋』は、必見だ! 其の後編 ふたりのNAMIKAWAここ並河七宝記念館では並河靖之の工房も見ることが出来る。(撮影は禁止)
並河作品の繊細さはどのような場所から生まれるのか非常に興味があった。
塵ひとつ落ちていない整然と整えられた緊迫した場所で生まれるのか、それとも、乱雑なほど物がひしめき合う到底生まれそうも無い場所なのか。いずれにしても常人には理解できない場所なのか。
並河作品が生まれる工房、もちろん全て当時のオリジナルのまま今日に至るものではないと思うが、工房自体は特に馬鹿でかい施設があるわけでもなく極めてシンプル。一点集中的なもので生産性は殆ど感じられなかった。七宝製作自体がそういうものであることは勿論のこと、なるほど、並河作品のような超絶的な細密を誇る芸術品が生まれる相応しい場所なのではないかと感じた。

環境と作品の関係。これらは何も並河作品に限られたものではない。
作品は何の前触れも無く四次元から生まれるものではない。作者が培ってきた環境が大きく反映され造られるものだ。その作品の魅力も勿論だが名作と呼ばれる作品が生まれた環境にも注目することでより楽しめるのではないだろうか。
並河作品の素晴らしさについては改めて説明するまでもないが、こうした施設を訪れることでより並河作品を身近に感じることが出来た。以後、彼の作品の見方が変わるだろう。
前述したが、ズラリと並べられた壮観な並河作品を期待してここを訪れても大部分の方が失望するだけだと思うが、自分は天才の仕事場を見ることが出来、大変感動した。