さて、こういうことは普段書かないのだが、非常に悔しかったので少し書こうと思う。
多分普通の方だと知らないと思うのだが、表題の
「江戸屋ブラシ」少し触れると、この江戸屋さんは東京都中央区にある刷毛・ブラシの製造、販売を行うお店だ。知る人は知っている超老舗有名店だ。
ここのブラシは靴好きの間では有名で、プロも使う高級靴ブラシ。職人さんひとりひとりが手植えで行う毛植えブラシは非常に繊細な作業が必要で、その完成品は匠の塊のようなブラシ。完成まで何工程も必要で、靴好きにとって憧れと同時にその生産数の少なさから
「幻のブラシ」といわれる逸品でもあったのだ。
自分も靴熱が再燃して以降、このブラシをずっと探していたのだが、日本橋の本店は勿論、どこにもなかった。
それでも血眼になって探せばなんとかなったのだろうが、
「根気よく待てばいつか買えるさ」という期待が心のどこかにはあったことがそうさせなかったのだろう。
ところがだ、
先日のとある日、江戸屋のHPに衝撃的な一文が・・・。
【手植え靴ブラシ 生産一時中止のお知らせ】
このたび弊社では、5月15日の江戸屋オンラインショップでの再発売をもちまして、「手植え靴ブラシ 小判型」の販売を一時終了させて頂くこととなりました。
同製品につきましては、職人の減少による生産量の著しい低下、ならびに材料費の高騰により、これまでの工程、価格では今後の製作の目処が立たなくなった為、生産を中止する事に致しました。
また皆様に靴ブラシをお届け出来ますよう、製作方法等見直して参ります。
生産終了に伴い、ご不便をお掛け致しますが、何卒ご了承賜りますようお願い申し上げます。
※尚、店舗での販売はございません。
下記【江戸屋 オンラインショップ】のみの再販となります。と、ある。
・・・おそらくこの発表に日本中の靴好きが愕然としたと思う。いや・・・わかる、わかります。確かにこの手の職人さんは数が少なくなっていることでしょうし、あれだけのものを作るのは非常なる手間が掛かります。生産数の著しい低下、ホント、わかります。欲を言えば三ヶ月に一度、いや、半年に一回ぐらいの販売で良いです。「工程を見直し・・・」とありますが、それは止めましょうよ。簡略化されると商品自体のクオリティーが下がり、江戸屋ブラシが江戸屋ブラシでなくなるのではないでしょうか、「前の方が良かった」なんて・・・そうしたことが懸念されます。できれば今のまま作って頂きたい。
価格に関しても、景気が良いといわれながらそれを実感できない生活の中、むしろあのクオリティー、よくあの値段で作ってくれました。値上げ、結構です。(あんまり高いと困りますが・・・。)
ただ、ただですよ、生産中止だけは勘弁して欲しかった・・・。唖然、呆然、そして、愕然です。言葉が出なかった。
この事実を知ったのは確かGW前だったと思う。
ただ、まだ望みはあった。
最終ロットが5月15日(金)に江戸屋のネットショップのみで販売される。
これが、事実上最後のチャンスとなる。逆に言えばこの最後のチャンスに巡り会えて良かった。現時点ではそう捉えるべきだろう。
販売時間がわからなかったので一度電話をし、アップされる時間を聞いたのだが「申し訳ありませんが未定です。」ということで、これはもうパソコンの前に張り付いてチェックするしか無いな。という結論に。
争奪戦は必須であると同時に
「まぁ、そうはいっても、ものの数分で完売と言うことはないだろう。」と、たかをくくっていた。今思えばここで
「コンマ一秒の戦いになるはずだ。」と強く認識しておけば間違いはなかったはずだったのだ・・・。
とはいえ、状況はそう甘くはない。
金曜日は勿論仕事であり、こまめにパソコンやスマホなどをチェックする余裕は殆ど無い。そのため相方に援軍を頼んだ。ふたりでやれば何とかなるだろう。そう思っていた。
江戸屋さんの計らいでブラシの購入上限個数は2個までとなっている。生産数が少ないため多くの人の手に渡らせようという心遣い。こちらもむやみにダブって買うのは止めようと出来る範囲で交代制にした。
ただ不安材料としてどのぐらいの個数の販売になるか最終的な検品が終わらないとわからないということだった。「100個として50人」と考えると不安の方が大きかった。
そして迎えた5月15日当日深夜0時、発売されるとなると、まず日付が変わるこの時間が考えられたが、表示は変わらず。この時間での販売はなかった。
そこから就寝したのだが徹夜でチェックすることもできず、まさか深夜の分けわかんない時間に販売することはないだろうと目を閉じた。
しかし、なかなか寝付けなく一時間ぐらいおきに目が覚めてしまった。朝5時に起きお弁当などを作って出勤時間までの僅かな時間パソコンに張り付いていたが表示は変わらなかった。
午前9時、江戸屋の開店時間だ。第二の有力な販売時間開始はここから10分ぐらいの間に行われるかもしれない。同時に自らも仕事に集中しなければならない時間帯となり、ここでスマホをしまい相方に全てを任せた。
ところが、予想に反してその後も販売される気配は無く、結局なんだかんだで16時まで来てしまった。
「まさか・・・もしかして販売は無くなったか・・・?」さすがにしびれを切らして江戸屋に電話を掛けた。
「最終的な検品と正確な数の把握のためもう少し掛かります。本日中に必ず発売します。」という返答。なおかつ、深夜など変な時間帯に販売することは無いという明確な答えを得た。
よし、つまりはあと2〜3時間で発売されるはず。
勝負は一瞬で決まった。18時頃、ネットショップの一部表示がかわり今まで欠品中だったものが一部購入可能になっていた。
ただ、一連の狙っているブラシの表示はそのままだ。
今回は3種類、4個のブラシを買おうと思っていた。
おかしいなと思いリロードするも表示は変わらず。
その時、相方から直電。が、ワンコールで切れる。
何か動きがあったか?と思い再度リロードするも変わらない。
そして、再びコール。
「販売が始まったよ。」
エッ!?と思い目の前のモニターを見るも変化無し。
おかしいと思いリロードするとようやく購入可能な表示に。
よしっ、と思い必要事項を打ち込み完了のボタンを押す。
が、すでに在庫切れの表示が出て、画面が先に進まない!!
この間は約1分。
画面を無理矢理戻し、在庫を確認するとすでに購入対象のブラシ2種類が在庫切れになっていた。そのうちひとつは最も欲しかったのものだった。
・・・この時点で戦意喪失。購入はあきらめた。
18時間待ったわりにはあまりにも呆気ない幕切れだった。
時計を見たら18時10分。争奪戦になるとは予想していたが、ここまでとは思わなかった。読みが浅かった。
ドッと疲れた。
勿論悔しさだけが残ったのだが、反面モノを購入するのに何日も前から楽しみにし、ドキドキしたことは久しぶりだった。
総じて、
この道具にはそこまでさせる何かがあったということだろう。無事購入したらビールで乾杯しようとしていたのだが思わぬ苦酒となった。磨かれぬまま目の前にある靴たちもガックリだ。
そして、幻のブラシといわれる江戸屋ブラシ、本当に幻になってしまったのがとても悲しい。
ちなみに、多分そうなると思ったが、案の定翌日にはネットオークションにこのブラシが出品されていた。最終的な落札価格は高いもので定価の5倍。恐ろしい・・・。
江戸屋さんへ靴ブラシの生産中止(見直し)、誠に残念です。諸事情は理解できますし、寧ろ今までこうした苦しい事情の中確かな製品を作り続けて頂きありがとうございました。再生産への障害も色々と考えられますが、私だけで無く、日本中の靴好きが待ち望んでおりますので、早い段階での再生産を是非よろしくお願いします。
待ってます。
【約2年後の後日談↓】
信じる者は救われた。幻の江戸屋ブラシ、ついに復活!!ちなみにこちらも江戸屋さんのブラシです。めちゃくちゃいいです。↓